カネ田一少年の事件簿「住宅ローン編2」【カネー】

はいはいはいはいはい、元鉄道運転士のカネーです。

今回はカネ田一少年の事件簿「住宅ローン編2」です。

よろしくお願い致します。

1はこちら

カネ田一少年の事件簿「住宅ローン編」1【カネー】



知美は、サイコパスとカネーを家の中にとおした。

飲み物を聞かれたので、どうぞおかまいなくと2人は答えた。部屋を見渡すと綺麗に片付いている。築年数は15年くらいだろうか。ワンワンと鳴き声が聞こえるので犬を飼っているようだ。

2人は通された部屋のソファに腰を掛けて早速話を聞くことにした。

「今回N村不動産の榊原氏よりご紹介受けたサイコパスです」

「部下のカネ―です。」

「よろしくお願いします。新田知美です。」

「さっそくですが新田様どのようなご相談なのでしょうか」

「これを…」

知美がだしてきたのはたくさんの手紙だった。

「開けてみてもよろしいでしょうか」

「恥ずかしいものですが、どうぞご覧になってください。」

 

封をあけると督促状と書いてあった。

中身を詳しくみると、住宅ローンの期限の利益喪失の為、約2000万のお金を一括で返済するようにと書いてある。何通か督促状があるが、督促状の請求月日が最近のものになるにつれ、請求額が増えている。最新のものは2,400万と記載がある。差出人はM井S友銀行だ。

 

「こちらに気が付いたのはいつ頃になるのでしょうか」サイコパスは真剣な目で聞いた。

「1か月前です。」

「なぜそれまで気が付かなかったのでしょうか。」

「銀行から連絡があったんです。」

「なるほど」とサイコパスは答えたが、険しい顔をしていた。

「こちらの家は知美様名義の家でしょうか。」

「いえ、別れた旦那名義の家です。」

「ただ、この督促状は知美さん宛てにきていますね。」

「ええ、この家を買って住宅ローンを組むときに私が連帯保証人になっていたものですから…」

 

カネーは目眩がした。

 

「元旦那様は現在こちらの家に住んでいないのですね。」

「はい、今住んでいるのは私だけです。元夫は少し離れたところにアパートを借りて住んでいます。」

「なるほど、この督促状の宛先は元旦那様が今お住まいになっているアパートというわけですね。」

「そうなんです、だから督促状や住宅ローンを払っていないことには全く気が付きませんでした。気付いていたら私が支払ったのですが…」

 

銀行は住宅ローンを支払いが遅れると葉書で登録してある住所に通知をする。次月に2か月分払うもしくは、別で振り込むようにするか銀行によっては様々だ。半年も全く回答をしないと期限の利益を喪失し、債権は保証会社に移る。移ってしまえば借りたお金は保証会社に一括で返済をしなければならなくなる。ただ、こうなる前に銀行に支払いを猶予してもらうようお願いすることもできる。よくあるケースは離職や病気で返済が困難になった場合に、利息だけの支払いにしてもらい元金の返済を待ってもらえる。そうすれば月々の支払いはかなり下がるのでその間に生活を立て直すことができる。ただし、銀行からの葉書や連絡を無視してしまっていてはどうしょうもない。

 

「別れた旦那様と連絡はとったのでしょうか」

「はい、銀行から連絡がきたあとにこちらから連絡しました。」

「なんと仰っていましたか。」

「自己破産することになったと…」

 

今までにないケースだなとカネーは心の中で呟いた。

実際に住宅ローンを払えなくなって相談を受けたケースはカネーも多々ある。主にお付き合いのある弁護士の先生からの相談が多く、相談者と弁護士で話はついているので、ほとんどの相談者は自己破産となり、持っている物件は任意売却をすることが多い。

当然自己破産をしないことに越したことはないが、ほとんどの相談者は自己破産を選ぶ。なぜなら相談にくる方のほとんどは住宅ローン以外にも別で多額の借金がある。いくら日本の不動産の相場が上がっていると言っても、住宅ローン以外の借金を全て返せる不動産を所有している人などわずかだし、そのような不動産の所有者は自己破産をするような人間ではない。

いつもであれば相談者が自己破産、所有していた物件は任意売却でスムーズに話がまとまるのだが、今回の場合は相談者は別で借金があるわけでもなく、他人(元旦那)がやらかしたことにより困っている人なので当然自己破産という選択はないだろう、さてサイコパス社長はどうするんだろうと頭の中で考えていた。

 

「自己破産をされるということは、既に破産管財人がついているんでしょうか」

「破産管財人と言いますとどのような方でしょうか、裁判所から家の評価額を査定するからと来られた方たちはいますが…」

「いえ、裁判所の方ではなく元旦那様の代理人です、おそらく弁護士がついてると思いますが」

「ああ、それでしたらいらっしゃいます、この方です。」知美は名刺を渡してきた。

そこには、『  まゆみ法律事務所 若田恵美 』と記載がある。

「こちらの弁護士の先生とお話しされましたか?」

「ええ、この家は競売になるから住めなくなると言われました。」

「なるほど、おいカネー、この連絡先を控えておけ。」

この時点でカネーは吐き気を覚えていたが「はい」と小さく答えた。

「銀行は何と仰っていますか」

「はい、連絡をしたんですが、一括返済をしてくれれば問題はないと…分割払いや代わりに私が残りの住宅ローンを月々支払うといったのですが取り合ってもらえませんでした。」

「そうでしょうね、こちらの債権は既にM井S友銀行の保証会社に移っているんです、その為保証会社に一括返済するしかない状況です。」

「売却は考えられなかったのでしょうか」

「はい、売却を考えて査定に地元の不動産会社に行ったのですが、周りの相場をみると、とてもじゃないが一括返済額以上で売るのは難しいと言われまして。さらにこちらもあるんです…」

知美は、別の封筒をだしてきた。こちらの宛名は市役所だ。

「確認させて頂きます。」

封をあけると、サイコパスは笑ったというより苦笑いをしている時の表情になった。確認すると住民税と固定資産税の督促状で総額は150万ほどだ。知美に聞くと元旦那の陽介が払っていなかったらしい。家に差し押さえが入っている。

物件に差し押さえが入ると当然ながら差し押さえを解除しない限り、売却することはできない。ちなみにだが自己破産をしても税金からは逃れられない。返すしかないのだ。つまり、一括返済額の2,400万円と税金の150万円をなくさない限り、今回の物件を売ることはできない。

「状況は理解しました。まずは元旦那様の代理人の弁護士の先生とコンタクトをとらさせて頂きます。」

「知美様、大丈夫です。我々が必ず何とかしますのでお任せください。」

サイコパスは自信に溢れた顔で言い切った。何か策があるのだろうかと考えていたがカネーには到底思いつかなかった。

「よろしくお願いします…」

知美は藁にも縋る思いで頭を下げた。

 

 

サイコパスとカネーは、サイコパスが停めた駐車場まで無言で歩いていた。サイコパスは頭の中でいろいろ考えているようだった。

カネーは口を開いた。

「社長、今までにないケースですね。知美さんを自己破産させるわけにはいかないですし、物件も残債では売るのが難しそうですし…」

「正直今回は俺もまだどうすればいいか全く思いついていない。最悪知美さんは自己破産しかないと思っている」

「ええ、社長!知美さんは自己破産はされたくないと思いますよ、それに知美さんの前でお任せくださいと言ったじゃないですか」

「当たり前だろ!不安がっている相談者の前で出来ないですなんて言えるか。まずは自信を持って取り組むんだよ、ダメだったら全力で謝るしかないんだからな。これはどの案件でも一緒だ。よく覚えておけ。」

カネーはサイコパスの意見に納得した。確かにこちらが不安な表情をみせればあちらも不安になってしまう。

「まずは元旦那の弁護士だ、こいつを抑えておかないと家がいつ競売になってもおかしくない、競売になれば借金だけ知美さんに残る。元旦那は自己破産するだろうから、残債の残りは知美さんが負うことになるからな。競売で高く売れればいいがそれは考えにくい。」

「分かりました。すぐに連絡します。」

カネーはさっそく電話を掛けた。

まゆみ法律事務所の弁護士は全てが女性らしい。すぐに担当の若田弁護士とつながった。

「私は、新田陽介様の元奥様の知美様より依頼を受けております、不動産会社のカネーと申します。」

「ああ、そうですか。何か御用ですか?」電話口からは高飛車な声が返ってきた。

「陽介様のお持ちの家の競売手続きに入っていらっしゃると思うのですが、あとどれくらいで競売になりますでしょうか。」

「そうですね、あと半年位で競売になると思いますよ。」

「ちなみにですが、弊社で任意売却をさせて頂いてもよろしいでしょうか」

「別にかまいませんけど、いくつかの不動産会社で査定したんですが保証会社の納得のいく金額では到底売れませんよ。保証会社も少しは譲歩してくれればいいんですけど、今回は全く譲歩しないようですので。」

少し前までは金融機関も残債に届かなくても少しでも返ってくるのであればと抵当権を外してくれたのだが今はそうはいかない。というのも抵当権を外して物件を売却したあとに残った債務は債務者が分割で返していくことになるのだが、返す以前に自己破産をしてしまうのだ。そのようなことが続いた為今はほとんどの保証会社では譲歩には応じない。満額返せなければ競売にしますと強気な姿勢だ。

「ですよね、ちなみに陽介様は自己破産以外に選択はないのでしょうか。例えば任意整理とか。個人再生とか」

「あら、よくご存知ね。任意整理と個人再生は今回厳しいわね。そもそも陽介さんはメンタルヘルスを患っていて分割でお金を返していくことはできないの。両方とも借金はチャラにはできないでしょ。生活していくだけで精一杯なのに月々の支払が残る任意整理と個人再生は無理よ」

「なるほど。ただ、元奥様もいらっしゃいますし、二人で生活していけば個人再生でもなんとかなるのではないでしょうか」

「でも、もう遅いのよ。保証会社に債権が移ってるでしょ。最初に相談に来られた時ならそういう提案はできたけど、自己破産を選ばれたので全ての支払いをとめてもらったの。本人にも任意整理、個人再生、自己破産の3つを提示したけど、自己破産を選ばれたわよ。」

「ほんとですか、ただ元奥様が住宅ローンの連帯保証人になってるんです。自己破産を選ばれてしまうと元奥様に債務がいってしまいます。」

「あらそうなの、でも私の依頼者はあくまでも新田陽介さんなのよ、元奥様は大変かもしれないけど私には関係ないわ。」

カネーはめちゃくちゃイラっとした。なんだこいつ。やっぱり弁護士なんてろくなやつがいない。感情のないサイボーグばかりだと心底思った。そもそも任意整理、個人再生に比べて自己破産は1番報酬が大きいはずだ。それを知って誘導したんじゃないのかとさえ疑念に思った。

「いや、しかし…」

「もうやめとけ!」

サイコパスがカネーの電話を取り上げた。

「若田先生、失礼致しました。電話口の上司のサイコパスです。詳しいところまで丁寧に教えてくださりましてありがとうございます。また何か分からないことがありましたら、ご連絡差し上げてもよろしいでしょうか」

「ええ、いいですけど」

「ありがとうございます、それでは失礼致します。」

サイコパスは電話を切った。

「お前が感情的になってどうする、お前の悪い癖だぞ。向こうも仕事でやってるんだから、向こうのやりやすいように動くに決まっているだろう!あとどれくらいで競売になるか知れれば十分なんだ。余計に知識があるからってプロ相手に踏み込んでいくんじゃない!」

「大変申し訳ございません。」 カネーは反省した。

「とにかく半年の猶予があるから、それまでに何とか動け。とりあえず地元の金融機関をあたれ。事情を話して金を貸してもらうしかない。」

「分かりました。」

カネーは地元の地銀、信用金庫に電話をかけて事情を話した。

住宅ローンの連帯保証人になってしまったので、お金を貸して欲しい。お金を貸してくれたら家を担保にしてもかまわないということを伝えた。

しかし、入り口でことごとく断られた。

うちでは無理ですの一点張りだった。

競売まで刻々と時間が迫ってきている。カネーは頭を抱えた。

 

そんな時にふと思い出した。あの人に言えば何とかなるかもしれない。

カネーは電話を掛けた。

 



 

 

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次回予告

カネーはある人物に電話をかける。

はたしてその人物はカネー、いや、知美の救世主となれるのだろうか。

次回、カネ田一少年の事件簿「住宅ローン編」3

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不動産ベンチャー企業で仲介業をしていた経験を活かせると思いスムラボに応募しました。 忖度はせず本音で物件のことを書こうと思います。 [寄稿] マンションコミュニティ:スムラボ派出所スレ

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